家づくりに「鉄のカーテン」が必要な理由【前編】

理想の住まいを形にするお手伝いをしていると、残念ながら「施工中のトラブル」という、悲鳴に近いご相談をいただくことが後を絶ちません。せっかくの家づくりが、なぜ途中で暗雲に包まれてしまうのか。その原因のひとつに、ハウスメーカーやゼネコンによく見られる「設計と施工が分離されていない」構造にあると私は考えています。
◆現場に引かれるべき聖域の境界線「鉄のカーテン」

昔、施工のセンセイが「設計と工事の間には、鉄のカーテンが引かれていなければならない」と切々と説かれたことが、今も頭から離れません。「仲が悪いほうがいい」と言っているように聞こえるかもしれませんが、これはプロの世界における健全な緊張感を指す言葉です。
この境界が曖昧になると、現場ではどうしても施工のしやすさが優先されがちになります。結果として、顧客の切実な希望や、設計者が本来意図していた繊細なディテールが、現場の都合という大きな波に飲み込まれてしまうのです。
例えば、洋服のオーダーメイド。仕立て屋さんがこのデザインは縫いにくいから、勝手にポケットの形を変えちゃおうと現場判断で決めてしまったら、それはもう別物ですよね。建築も同じです。設計図という「理想」と、現場という「現実」が適度な距離を保ち、互いに譲れない一線を守るからこそ、住まい手の期待を裏切らない一軒が完成するのです。
◆なあなあが招く、施主不在の妥協

なぜカーテンが必要なのか。その最大の理由は「チェック機能」を正常に働かせるためです。設計者と施工者が同じ組織であったり、あまりに距離が近すぎたりすると、現場でミスや不備が生じた際に見過ごされてしまったり、是正対応されないなどのリスクが格段に上がります。
本来、工事において両者が担うべき使命は明確に異なります。
設計者の役割: 図面通りに正しく工事が行われているか、施主の代理人として工事監理を行うこと。
施工者の役割: 決められた予算と工期の中で、安全かつ確実に建物を形にすること。
両者が身内である場合、不都合が起きたときに「これくらいはいいだろう」「工期が遅れるから内々に処理しよう」という妥協が生まれやすくなります。そして実際にこれは良くあることです。独立した設計者が「第三者の目」として厳格に立ちはだかる環境こそが、最終的に建物の品質を担保するのです。
◆利益相反という避けられない現実

実は、設計者と施工者はお金に関する目的が根本的に異なります。施工者は効率を上げて利益を確保したいと考えますが、設計者は品質を確保し、施主の理想を叶えることを至上命題とします。
例えば、施工者がコストダウンのために見えない部分の材料をダウングレードしようとした場合、独立した設計者がいれば「それは認められません」と毅然とノーを突きつけることができます。しかし、両者が一体化していると、設計者の声はかき消され、施主の知らないところで会社の利益が優先される構造的な弱さが露呈してしまいます。
家づくりは非常に複雑で、一般の方が工事の正誤を判断するのは困難です。だからこそ、設計者が施主の唯一無二の味方であり続けられるよう、物理的・心理的な壁が必要なのです。このカーテンは、拒絶のための壁ではなく、プロとしての誇りと施主様への誠実さを守るための信頼の境界線にほかなりません。 後編へ続く…



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