理想のマイホーム「1mmの狂い」は許されない?
理想のマイホームに横たわる境界線

人生最大のプロジェクト、理想のマイホームづくり。お施主様の熱意が太陽だとしたら、現場はさながら巨大なキャンバスです。しかし、完成間際になって「あれ? 想像と違う……」という小さな違和感が芽生えると、それは一気に巨大なトルネードへと急成長してしまいます。
「仕上がりに納得がいかないんです。だから、直してもらうのが当然ですよね?」
よくご相談いただく切実なパッション。そのお気持ち、痛いほど分かります。ですが、ここでプロの視点から冷静なアドバイスを少々。実は、「仕上がりの満足度」と「直すべき不備」の間には、目に見えない溝が横たわっているのです。
住宅の命に関わる「レッドゾーン」

まず、個人の好みやこだわりを横に置いて、施工会社がマッハの速さで是正しなければならない領域があります。これは住宅の生存本能、つまり安全・安心の最低ラインです。
例えば、図面と異なる配筋のピッチ、重ね継ぎ手の長さ不足、金物の付け間違い、雨漏りを招く防水施工のミスなど安全性や耐久性に係わる大事な部分です。
これらは、たとえお施主様が「性格的に細かいことは気にしないから」とおっしゃったとしても、看過できない住まいの寿命に直結するポイント。
「美意識」という名の主観の壁

一方で、トラブルの火種になりやすいのが「見栄え」や「使い勝手」という、いわばセンスの領域です。
例えば、クロスの継ぎ目の処理や数ミリの小傷。「5mmの傷は心の傷。許すまじ」とメラメラするか、「住めば傷つくもの。愛嬌よ」と笑い飛ばすか、まさに個人の美学の分かれ道。
また、「コンセントの位置が想像と違った」「照明がイメージと違う」といった、打合せ通りになっているにもかかわらず、間欠泉のように湧き上がる違和感。
残念ながら、これらについての補修依頼は有償という大人のルールが適用されます。
「一品受注生産」という、建築のロマンと現実

建築物は、工場でベルトコンベアで組み立てる車とは違います(たとえ工場生産のパートがあったとしても)。現場で職人が一歩ずつ組み上げる、世界にひとつだけの「一品受注生産品」です。
その敷地特有の環境や、職人の技、そして天然木材のような気まぐれな素材の個体差に影響を受けます。そのため、工業製品のような精度を求めるのは、マンモスとタイマン張って丸腰でやっつけるぐらい困難なことでもあります。
施工会社や住宅メーカーが採用している「施工(品質)基準」には、仕上げの目視検査は「〇m 離れた位置から通常の照明下で確認する」といった規定が設けられているケースが多々あります。これは、光の当たり方や極至近距離でしか見えない微細な差異までをNGとしてしまうと、建築行為そのものが成立しなくなる……という、非常に現実的な判断によるものです。
納得のいく着地点を見つけるために

このように、建築にはどうしても揺らぎが伴います。
「契約不適合責任」という少し硬い法律用語がありますが、これは突き詰めれば、「あの日、あたしたちが交わした約束通りなの?」という問いかけに他なりません。つまり、何をもってゴール(完成)とするかという着地点を、事前にどこまで熱く、そして細やかに語り合えたかが運命の分かれ道となります。
主要な仕上げの質感や、建物の強度や性能、日々の生活動線へのこだわり。
「あれだけ話したし、あの人もそれはいいねって賛成してくれたんだもの。絶対伝わっているはず」
それは幻かもしれません。サンプルや画像、図面を駆使して、徹底的に認識のすり合わせを行ってください。これこそが、新築トラブルという荒波をスマートに乗りこなすための、最強のライフジャケットになります。
打ち合わせで積み上げた図面を、120点のハッピーな現実に変えるのは、現場との信頼のキャッチボールです。引き方の難しい境界線を正しく理解しておくことが、皆様の家づくりをより豊かで心穏やかな冒険にしてくれるはずです。


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